大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和43年(ネ)1008号 判決

控訴人

丸三紙工有限会社

代理人

飯山悦治

牧野芳夫

控訴人

清水節子

控訴人

朴栄年

右両名代理人

牧野芳夫

被控訴人

金子正三

代理人

金野一秀

主文

一、原判決を取り消す。

二、被控訴人の請求を棄却する。

三、被控訴人は、控訴人丸三紙工有限会社に対し、別紙物件目録記載の不動産に存する別紙登記目録記載の権利につき、昭和四四年四月二四日代位弁済を原因とする各移転登記(付記登記)手続をせよ。

四、訴訟費用は、第一、二審を通じ、被控訴人の負担とする。

事実

一、控訴人らは主文第一、二項、第四項同旨の判決を求め、控訴人丸三紙工有限会社は、さらに第三項同旨の判決を求めた。被控訴人は控訴棄却の判決を求め、さらに、控訴人丸三紙工有限会社の控訴審における新訴(主文第三項)を棄却する旨の判決を求めた。

二、被控訴人は、本訴請求の原因を、次のとおり述べた。

(二) 平和相互銀行は、昭和三五年四月一二日、浦島亀三との間で継続的貸金契約継続的手形割引契約相互掛金契約を締結し、同日浦島トクとの間で、亀三が右各契約にもとづいて負担する債務のうち金三〇〇万円の支払を担保するため、トク所有の別紙物件目録記載の不動産に根抵当権を設定するとともに、右被担保債権の弁済を怠つたときは右物件の所有権を平和相互銀行が取得しうる旨の代物弁済の予約および亀三の債務不履行を停止条件とする右物件の賃貸借を締結し、別紙登記目録記載のとおり、根抵当権設定登記、所有権移転、賃借権設定の各仮登記を経由した。

(二) 亀三は昭和三六年一月二〇日死亡し、その相続人となつた浦島良夫は、昭和三七年一二月二〇日、トクおよび平和相互銀行の同意をえたうえで、前記各契約にもとづく亀三の地位を承継し、同日右契約にもとづいて同銀行は良夫に対し、金四〇〇万円を弁済期昭和三九年四月一〇日、利息歩三銭、損害金日歩五銭の約定で貸与したところ、良夫は、昭和三九年二月分の利息の支払を怠つたので、約定により、同月末日をもつて期限の利益を喪つた。

(三) 被控訴人は、昭和三九年九月七日、良夫とトクの承諾のもとに、同銀行から、同銀行の良夫に対する右貸金の未払残元金九三万七、三〇四円と、これに対する昭和三九年三月一日から同年九月七日までの日歩五銭の約定遅延損害金八万九、五一二円以上合計一〇二万六、八一六円の債権を、これを担保する前記各権利とともに譲りうけ、その旨付記登記を経由した。

(四) 良夫は、右債務を支払わなかつたので、被控訴人は昭和四〇年二月一八日到達の書面をもつてトクに対し、本件不動産を代物弁済として取得する旨の通知をした。

(五) 右通知により、被控訴人は本件不動産の所有権を取得したが、右仮登記後、控訴人らは、本件不動産について、前記法務局出張所受付にかかる次ぎの登記を経由している。

(イ) 控訴人丸三紙工有限会社は、昭和三七年二月九日受付第一四一九号抵当権設定登記

(ロ) 控訴人清水節子は、昭和三九年二月一七日受付第二一二一号抵当権設定仮登記

(ハ) 控訴人朴栄年は、昭和三九年八月一三日受付第一一七四号所有権移転請求権仮登記

(六) よつて、被控訴人は、控訴人三名に対して、前記仮登記にもとづく登記手続をすることについて承諾することを訴求する。

三、控訴人らは、右請求原因事実を全部認め、次のとおり抗弁および反訴請求原因を主張した。

(一)  平和相互銀行は、昭和三九年五月に良夫の債務不履行を理由として本件根抵当権実行の申立をし、鑑定により、本件不動産の最低競売価格が七四三万円と定められた。そこで、トク、良夫の親子は、弁護士に相談し、控訴人らの権利を喪失させる目的で郡司静から一〇三万円を借りうけ、自分らの雇人の弟である被控訴人をして、同年九月七日右銀行から残債権および本件担保権を一〇二万、六八一六円の対価を払つて買い受けさせ、翌八日同銀行をして競売を取り下げさせたうえ、代物弁済予約完結の意思表示をしたものであるから、被控訴人の右債権譲受は民法九〇条により無効であり、完結権の行使は権利の濫用である。

(二)  本件代物弁済の予約の実質は、債権担保契約であるから、債務者は、担保物件が第三者に処分されるまで被担保債務を弁済し目的物を取り戻しうる(昭和四二年一一月一六日第一小法廷判決)ところ、控訴人丸三紙工有限会社は、債務者・良夫に代わり、昭和四四年四月二三日、同人が被控訴人に対して負担する残元金九三万七、三〇四円とこれに対する昭和三九年三月一日から昭和四四年四月二三日まで日歩五銭の遅延損害金八八万一、五三一円との合計金一八一万八、八三五円を弁済のため現実に提供して受領を求めたが、被控訴人はこれを拒絶したので、翌二四日これを供託した。右供託によつて、被控訴人の債権は消滅したから、本訴請求は理由がない。そして、同控訴人は、後順位抵当権者であるから、弁済をするにつき正当の利益を有する第三者にあたり、弁済によつて当然債権者に代位するから、被控訴人がもつていた担保権は同控訴人に移転した。よつて、反訴(従前の反訴を交換的に変更する)として、主文第三項同旨の判決を求める。

四、被控訴人は、控訴人らの抗弁および控訴人丸三紙工有限会社の反訴請求原因について、次のとおり答えた。

(一)  平和相互銀行が根抵当権の実行を申し立て、これを取り下げたことは認めるが、トク、良夫が被控訴人をして右銀行の債権を譲り受けさせたことは否認する。

(二)  控訴人丸三紙工有会社から、その主張の弁済の提供があり、これを拒絶したこと、供託されたことは認めるが、本件代物弁済予約は非清算であり、かりに清算型であるとしても、昭和四二年四月一九日被控訴人は物件所有者トクに対し清算金一五〇万円を支払つて清算を終了し良夫の被控訴人に対する債務は完全に消滅したから、その後された同控訴人の弁済供託は被控訴人の取得した本件不動産の所有権を喪失させる効力がない。

理由

一、本訴請求原因事実は当事者間に争いがないので、以下、控訴人らの抗弁および控訴人丸三紙工有限会社の反訴請求について判断する。

二、〈証拠〉を総合すると、被控訴人主張のように、浦島亀三は平和相互銀行との間に継続的貸金契約・継続的手形割引契約・相互掛金契約を締結し、該契約より生じる亀三の債務を担保するため、浦島トクが本件不動産に極度額三〇〇万円の根抵当権を設定するとともに、併せて代物弁済予約をしたこと、本件不動産の最低競売価格が七四三万円であつたこと、右代物弁済予約の一条項として、担保物件を処分しても被担保債権額に不足を生じたときは、債務者においてその不足額を支払う旨約されていること、以上の事実を認めることができる。右諸事情よりみれば、本件代物弁済予約は、債権担保契約であり、債務不履行があれば、債権者は担保物件の所有権を取得しうるが、物件価格と被担保債権額との差額を清算金として物件提供者(後順位担保権者があるときは、その者)に支払うことを要する趣旨であると解するのが相当である。そして、このような場合には、代物弁済の形式がとられていても、その実質は担保権であるから、予約完結の意思表示により債務消滅の効果が発生することなく、担保権の実行完了即ち帰属清算型においては所有権移転登記の経由、処分清算型においては換価処分がされるまでは、本来の債務は消滅せず、債務者は本来の債務を弁済(弁済供託)して担保物件を取り戻しうるものというべきである。

三、本件代物弁済予約上の権利は、右のような性質をもつものであるから、被控訴人の本件債権および担保権の譲受行為ならび予約完結の意思表示が後順位担保権者を害することを前提とする控訴人らの抗弁(一)は理由がない。

四、控訴人丸三紙工有限会社が、債務者浦島良夫に代わり、その負担する被控訴人に対する債務金額を債権者たる被控訴人に弁済のため提供したところ、被控訴人がその受領を拒絶したので供託した事実は当事者争いがない。そして、反対の意思表示の認めえられない本件においては、右控訴会社は、後順位抵当権者として利害の関係を有する第三者として弁済をなしうる者であるから、右供託によつて、本件代物弁済予約の被担保債権は消滅に帰し、被控訴人は代物弁済の予約完結に基づく権利を喪失したわけであるから、被控訴人の本訴請求は理由なく、棄却を免れない。被控訴人は、清算金を浦島トクに支払い債務は消滅しているから、その後にされた控訴人丸三紙工有限会社の弁済供託は無意味であるというが、本件の場合のように後順位担権者がある場合に、代物弁済の予約を完結した権利者が債務者に清算金を支払つても、これに対抗することはできないものと解すべきであるから、被控訴人の主張は理由がない。

五、後順位担保権者たる控訴人丸三紙工有限会社が、先順位担保権の被担保債務を、債務者に代わつて弁済するにつき正当の利益を有することは前記のとおりであるから、控訴人丸三紙工有限会社は、右弁済供託により、被控訴人の有した別紙登記目録記載の登記にかかる担保権を取得したものというべきである。

そうとすれば、これが移転登記((一)(二)については移転の付記登記)を求める同控訴人の反訴請求は理由があるから、これを認容すべきである。

六、よつて、原判決を取り消し、民訴法八九条、九五条を適用して、主文のとおり判決する。(仁分百合人 瀬戸正二 土肥原光圀)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例